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日本語でオケ!

Taekoさんのblogで渋谷のカフェ・ドゥマゴの名前を見つけたので、大阪にあったあるお店のオマージュとして書いてみました(笑)

もう随分前のことになるのですが、大阪の心斎橋にクリスタ長堀という地下のショッピング街ができました。大阪はかつて「水の都」と呼ばれた(誰が呼んだ?)らしいのですが、今はもう、あちらこちらの川は埋め立てられ、当時の様子をしのばせるものはもう少なくなっています。このクリスタ長堀もかつては長堀川という川が流れていた場所で・・・などという蘊蓄はここではどうでもいい話なのですね。とにかくこの地下街にパリのカフェ・ド・フロールが出店すると聞いて腰を抜かしそうになったことがありました。

「なにゆえ大阪?しかも地下に?」と疑問は募るばかりでしたが、カフェがオープンしたばかりのころは地元関西のテレビでもかなりとりあげられ、なかでもパリの店さながらにギャルソンのお兄さんたちが店内を行き交い、お客さんからのオーダーも厨房に「アン・カフェ・シル・ヴ・プレッ!」「ウイーッ!(『バァ、ウェ〜』ではない)」と、よせばいいのに・・・いや、本格的(笑)にフランス語で通す様子は特に珍しげに取り上げられていました。
(こんな威勢のいいオーダーの通し方をパリの本店ではやっているのか?)
で、僕もよせばいいのに(笑)リサーチに行きました。

今はもう慣れましたが、「山が見えてりゃ、そっちが北」という地域限定でしか通用しない方向感覚しかなかった神戸出身の僕にとって大阪の心斎橋は、どっちを向いて歩いているのかさっぱりわからないという不安を常に抱えて動き回らねばならない場所だったのですが、地下鉄の改札を出ると、すぐにその店を見つけることができました。
「おぉー、ここかぁ・・・」と思いながら店を見ると、やっぱりなんか変・・・
無理してパリの本店をまねているのか、店先の二人席は横に並んで通りの方を向いているのですが、その通りというのはもちろんサン=ジェルマン大通りではなく「地下道」ですよ、アータ。何がうれしくて地下道を行き交う人々をながめながらコーヒーを飲んだり、食事をしたりせにゃならんのか・・・

などと思いながらも折角来たのだからとにかく中に入ってみないと、と思って早速店の中に・・・
まぁ話題になっていた時期なだけに、けっこう人が入っていました。
「ドゥ・カフェ・シル・ヴ・プレッ!」「ウイーッ!」とテレビで見たとおり、フランス語でオーダーを通す声が聞こえてきます。
「おー、やっとる、やっとる」と思いながら、ふとメニューを見ると「エスプレッソ600円」って、高っけー!!!
こんなの他の場所ならいざ知らず、大阪ではアカンやろ?
ていうか大阪なら条例で禁止されてる値段じゃないの?(←ウソです)
もうアホらしくてエスプレッソしか頼みませんでした。

・・・と本来ならこれで終わる話なのですが、実は後日談があるのです。
それからしばらくしたある日、ルーアンで知り合った大阪出身のT(男性)から突然電話がありました。つい最近帰国したそうで、わざわざ電話をくれたようです。彼はどういうわけかフランスで演劇に目覚め、俳優を目指すべく某劇団に入ることが決まったとのことでしたが、幾ばくかの収入も望みたいということで「何かいいバイトとかないですかね」とよりによってそういうことに関しては何の役にも立たないはずの僕のところに相談の電話をかけてきたのです。
『そんなこといきなり言われてもなぁ・・・』というところだったのですが、ふとカフェ・ド・フロールのことを思いだし、「あの店、フランス語でオーダーを通すのがウリみたいになってるから、Tが働かせてくれっていったら雇ってくれるかもしれんよ・・」とかなり無責任なアドバイスをしてしまったのです。
すると数日後、「採用決まりました。foretさんのおかげです」との返事が(笑)

『うわー、言ってみるもんやなぁ・・・』と変に自分に感心もしたのですが、実際Tは、オーダーを通す際のフランス語の発音やメニューの表記とかについてもお店の人からいろいろ相談されるくらい重宝がられたようでしたから、僕のアドバイスもまんざら捨てたもんじゃありませんな。

それからしばらくしてTと再会したときに、カフェ・ド・フロールでのバイトのエピソードをいくつか教えてもらいました。とにかくこのようなフレンチスタイルのお店を求めて来てくれるお客さんならともかく、ごく普通に「ちょっと喫茶店で休憩しよか?」って感じのお客さん(主としてオッサン)などは、水を持ってオーダーをとりに行くと、開口一番、「ホットちょうだい」と言う人がデフォルト。いわゆる「ホット」というものはメニューにはないと告げ、エスプレッソについて説明すると、
「ほな、それでええわ」の返事。
で、出来上がったエスプレッソを客のテーブルに置くと、当時はまだエスプレッソも年配のひとの間ではメジャーではなかったせいか、
「なんやこれ?なんでこんなに入れもんがちっこいねん?」と文句を言われ、
フランス風にその場で代金の支払いをお願いすると、
「えっ、もう払わせんのかいな?」と驚かれ、
「600円になります」と言うと
「はぁ?ろぉっぴぃゃくえぇん?こんなちょびっとしか入ってへんのにエエ値ェ(訳:いい値段)取りよんのぉ〜」と客に怒られたこともしばしばとのこと。

そんなある日、6人組のお客さんがきて、全員エスプレッソを注文。Tは早速、お店ルールに従いフランス語で"Six cafes s'il vous plait!"(←アクソンの出し方がわかりません)とオーダーを通しました。
しかし厨房からの返事はなく、「ハァ?」という反応だったので、Tはもう一度「シ・カフェ・シル・ヴ・プレッ!」と言ったのですが、やはり反応はなし。さらにもう一度言っても同じ反応。
ここでTは掟破りのこの一言。
「こぉひぃむっつ、おねがいしまぁす!」
そして厨房からはようやく「うぃーっ!」の返事。

あとで厨房スタッフに確認すると、一気にコーヒー6つものオーダーは初めてだったようで、しかも6をフランス語で「シス」と発音することは聞いていたものの、あとに"cafes"の単語が続くと「しかふぇ」と聞こえるとは知らなかったとのことでした。
(そらまぁ、そうなるよね・・・)

そんなTもそこでのバイトを辞めてしまい、僕が数年後に久しぶりに店を訪れると、
威勢の良いフランス語でのオーダーもなくなっていました。
近くにスタバができたせいか、エスプレッソの値段も少し下がっていたのですが、
客足はそこそこあったものの、当然ながらオープン当初の勢いはなく、
とうとう去年、閉店していました。
一時期はマカロン人気で客足が増えたようですが、結局スタバを初めとするシアトル系のカフェにお客さんが流れてしまったことが原因だったようです。
渋谷のカフェ・ドゥマゴは健在でなによりですが、大阪の水はカフェ・ドゥ・フロールには厳しかったのかもしれません。

   ※     ※     ※     ※     ※     ※     ※



なんか今更って感じですが、YouTubeで昔懐かしいフランスの歌をいろいろと見つけて聞いています。シルヴィ・バルタンがバルタン星人の名前の元になっていたと知ったときはひっくり返りそうになったのですが、この「アイドルをさがせ」という映画は僕がフランス語の勉強をしていたときに、たまたまテレビで深夜やっていたのを録画して何度も繰り返し見ていたので、今見るとすごくなつかしいですね。

同じ映画の中でのこの曲もけっこうシブくて好きです


ついでに・・・
僕がフランスにいたということで、「セシールのCMのナレーション(「いろふーる・さこんふぃあんす・えそなむー」ってやつ)をしてくれ」というのと共に知人・友人たちからよくリクエストされるのが
「(カラオケで)フランス語の歌を歌ってくれ」
というものですが、カラオケにフランス語の曲って入ってないんですよね。
内心、『あー、よかった』とホッとしていると1曲発見されちゃいました
その曲とは・・・
http://www.youtube.com/watch?v=J9nM9uuE-l8&feature=related
・・・て、歌えるか、こんなん!
プペ・ドゥ・シール・プペ・ドゥ・ソンッ♪
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コメント 12

c-d-m

がはは。
私の場合はダーバンのキメの一言でした。(時代を感じます・・。)
カラオケもそうですが、仏蘭西語の歌は日本の飲食店では未だに懐メロですね。
フランス人の若いヤツは終いには逆ギレしますので大変です。
(日本で言うと美空婦人とかサブ師匠ですよね)
ちなみに私は本家の歌うパンチの効いた情熱的な愛の賛歌よりコーちゃんのシャンソンの方がエレガントで心を揺さぶられますが、何か?


by c-d-m (2009-10-13 21:13) 

Bonheur

面白ーい!!
リーマンのおやっさんたちが、カップの小ささ&価格に文句を言い、店員さんがフラ語の注文を聞きとれない様子、目に浮かぶようです。というか、この記事を読み始めた時に、そういう想像が頭の中にありました。
それがそのまま、いや、foretさんの愉快な語り口で綴られていたので、面白さ倍増でした。さすがforetさん!

私がフランス語の勉強を始めたのは2002年の冬なのですが、先日まで、「なんで自分はフラ語を始めたんだっけ?」と、きっかけが思い出せずにおりました。
シルヴィ・バルタンの、"Irresistiblement"の曲が好きで、歌詞を理解したい、ということがきっかけだったことを思い出しました!
(その後、亀より遅い速度にて、うさぎのように寄り道しまくりながらも、フラ語勉強を続けております・・・)

Best盤を買いまして、↑「アイドルを探せ」は入ってました。「夢見るシャンソン人形」は、入っておらず・・・

邦題が面白いですね。「恋のスーパー・ギャル」というのもありましたよ。。

色々面白ネタを提供してくださるforetさんに感謝!


by Bonheur (2009-10-13 21:55) 

foret

★c-d-mさん
さっきYouTubeで調べてみたらセシールのCMがアップされてて、びっくりしました。一体誰がこんなもんを・・・
しかしこのCMって夜の11時以降しか流せなかったんじゃないですかね。
「アナタ、車買う?ワタシ高く買うわ」ってのと同じかも・・・

★Bonheurさん
上にあるc-d-mさんへのレスはスルーしてください(笑)
このTの話は僕もむちゃくちゃウケました。
シルヴィ・バルタンの"Irresistiblement"は僕も好きです。
数年前にCMで使われていたときに、ちょっとしたブームになりましたね。
「アイドルを探せ」という映画は、いかにも日本人がつけたB級タイトルかと思いきや、仏題もCherchez l'Idoleでした。フランスのかわいいアイドルたちがわんさか出てくるのかと思いきや、最後がシャルル・アズナヴールとは文句のひとつも言いたくなります。
ちなみに「夢見るシャンソン人形」を歌っていたのはシルヴィ・バルタンではなく、フランス・ギャルという冗談のような名前の人です。
by foret (2009-10-14 00:57) 

Bonheur

foretさんのコメントを拝見し、「セシールのCMがなぜ夜の11時以降??」と思い、you tubeで検索したら・・・(笑)
こんな、オトナなCMもあったんですね。
私の見たのはこんなアダルトな感じではなかったですが、確かに、夜遅くに目にしました。(小学生のころ、「欽ドン」というバラエティーの合間に流れるCMでセシールがよくありました)

セシールCMのフランス語は、もはや伝説ですね。
by Bonheur (2009-10-15 22:28) 

TaekoLovesParis

foretさんの語り口がおもしろいです(拍手)
カフェ・ド・フロールが地下にオープンっていう出だしから、ん?なのに、
「アン・カフェ・シル・ヴ・プレッ!」には笑えました。一時、中級イタリアンレストランで、「ヴォナセーラ!」と出迎えるのがはやったけど、そのノリですね。6つsixが通じなくて、日本語でやっつけちゃったのに、いつもの慣れた「うぃ~」で返事がかえるのも、ようすが想像できますよ。

東急線は乗客がおしゃれ、つまり東急デパートのお客様がおしゃれ
だから、Bunkamuraも定着し、カフェ・ドゥマゴもBunkamuraの顔として、
やってけてるんだと思います。オープン当初はメニューがパリのお店と
似ていて、量も多かったのに、今では日本ふうの量になりました。

フランス・ギャル、芸名といえど、よくぞこんな名前と感心しますよね。
「私は夢見るシャンソン人形、、」って日本語の歌がヒットしたんですよ。
フランス・ギャルと同じように舌ったらずに歌うのがね。
もちろん私は、cdmさんの「ダーバン、セテレガンス、、」よくわかります。
by TaekoLovesParis (2009-10-16 00:05) 

foret

★bonheurさん
見ぃたぁ~なぁ~~~、食ってやるぅ~~~

★Taekoさん
大阪にはある意味、その中級イタリアンレストランを超える店がありました。
スペイン料理の店なのですが、なんせ店内に入った途端、全ての店員が
「オラー、いらっしゃいませー」と口々に言ってくれるのですが、
オラーがスペイン語の「こんにちは」だと知らなければ絶対にびびります。ミレイユ・マチューみたいな巻き舌で言われたら、もうただのヤンキーですね。
フランス・ギャルの曲はフランスに行く前は全く知らずにいて、フランスで初めて意識して聞いたもんだから、後になって邦題を知ったくちです。
Attends ou va t'enの邦題が「夢見るシャンソン日記」って・・・
なんでも「シャンソン」つければいいてもんでもないでしょ、って感じですね。でも日本語で何曲か歌っているのにはびっくりです。
by foret (2009-10-16 00:41) 

c-d-m

そういえば大阪の某ビストロ(?)風なお店でもスタッフが怪しい仏蘭西語でお客を迎え撃っていたんですけど、如何せん付け焼刃。
「鴨、ワン、シルヴプレっ!」
という言葉の多国籍軍の奇襲攻撃に遭った事があります。
こういう時こそ、ある意味バァウェ~と返して欲しかったかも。
あれはオイシイところを持っていかれましたね、シェフ、お気の毒。
by c-d-m (2009-10-16 21:36) 

foret

★c-d-mさん
「リャンガー・コーテー・ツォーハン・イー」くらいですね。
僕がもう普通に聞き流せるのは・・・

僕の友人に「オードブル」というのが料理の名前だと思っていたやつがいて
一度フレンチレストランに行ったら、そいつを食ってやろうと・・・
それで店の人に
「オードブルお願いします」
「はい、何にいたしましょうか?」
「だからオードブルを・・・」
という会話を禅問答のように続けた強者がいますが、
そいつをぜひ、その「鴨、ワン、シルヴプレ!」の店に放ちたいです。
by foret (2009-10-17 01:44) 

Bonheur

コメント欄を読むのも楽しいforetさんのブログ(^O^)
多言語のオーダーのやりとり、端から見ていたら笑いますね~。

あくまで私の行ったいくつかのお店ですが、オーダーとそれを受ける厨房が、やたらと凝った言葉のやりとり(すべて完璧なイタリア語を目指したり)をしようとしているお店のそれ以外のサービスやお味は、イマイチな気がしました。オーダー方法に注力しなくていいから、美味しいものを普通に食べさせてちょうだい、と思いました。

そういえば、先日行った近所のショッピングモールのジェラート屋さんでは、オー・ブレネリだったか、有名な海外の民謡を、替え歌にして、売り子さん全員で歌いながら売ってましたよ。。 新型インフルが流行っている時期なので、あまり唾は飛ばさない方が・・・と思いました。
by Bonheur (2009-10-17 09:14) 

foret

★Bonheurさん
確かに、「やりゃぁ、いいってもんじゃない」って場面に遭遇することってありますね。
そのジェーラーとのお店の企画は誰が考えたのか気になります。
店員さんたち自らが「いっしょにやろうぜ!(by谷垣自民党総裁)」的なノリで、やっているならともかく、上から降りてきたプランの強制実行だとすると、誠に気の毒としか言いようがありません。
クリスマスのときにコンビニでサンタの帽子みたいなのを恥ずかしそうに頭に乗せている男性バイトの心境をイメージしました。
今後の流れとしては
①インフルの本格的流行により、マスクを着用しながらもそれでも続ける。
②「インフルの本格的流行により、歌はとりやめさせていただきます」の看板を出し、黙々とした営業に転換。
③保健所より営業停止処分を下される
などが予想されますが、どれも「痛い」ですね。
ヤッホッホッ♪
by foret (2009-10-17 12:04) 

りゅう

そういえば、カフェ・ドゥマゴを利用したことがありません。
Bunkamuraザ・ミュージアムにはよく行くのに。(/ー\*) イヤン♪
あ~閉店しちゃったんですね。。。残念。。。
もしや、近くのスタバは英語で・・・
by りゅう (2009-10-23 22:58) 

foret

りゅうさん、お久しぶりです。
コメントしてくださっているのに気がつきませんでした・・・
Bunkamuraはこの前、東京に行ったときに初めて訪れたのですが、いい感じのところですね。
近くのスタバは・・・普通のスタバです笑
by foret (2009-10-25 09:29) 

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