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二人のロッテ

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 僕は学生時代にボート部に所属していました。
ご存知のとおり、近くに水がなくては練習ができないスポーツですから基本は合宿所(埼玉県戸田市)暮らし。わざわざ大学から徒歩5分くらいのところに下宿していたにも関わらず、普段は合宿所から1時間半かけて通うという、ろくでもない生活をしていたのです。

 週に一度だけ家に帰ることができるのですが、普段は早朝練習で朝の4時半とか5時半に起きていた反動で、「休みの日くらい・・・」とダラ寝。目を覚まして、テレビをつけると画面からは
 よくて「まーちかーどテレビです-、いちいちまるまーるー♪」(午前11時)
 ふつうで「いーいとも、いーいとも、いーいーとーもーろー♪」(正午)
 悪けりゃ「なにが出るかな、何がでるかな♪」(午後1時)
の音楽が流れてくるというありさまで、『テニスサークル』や『スキー合宿』などという楽しげな言葉とは全く無縁の生活を送っていました。

 そんな中、週に一度の休みにたまたま出かけてみた銀座でリバイバル上映されていた「ローマの休日」を見てからというもの、その映画館で上映される昔の映画を見に行くのが楽しみになり、特にジーン・ケリーをはじめとするMGMのミュージカルにはえらくはまってしまったというか、オープニングでライオンが「ガォーッ!」と吠える姿を見た時点で、パブロフの犬のごとき条件反射で心がウキウキしてしまうほどでした。

 そんな僕ですが子供のころは、妹につきあわされて見たくもない宝塚歌劇を見させられていたせいか、逆にミュージカルというものに対して
 「いちいち歌いながら話してんじゃねぇよっ!」
 「踊ってなんかいないで、早くなんか言えよっ!」
てな感じで冷ややかに見ていた方なのです。

 そんな小学生時代のとき、学校で『劇場鑑賞会』のイベントで、『二人のロッテ』というミュージカルを見に行く機会がありました。有名な作品なのでご存知の方も多いと思いますが、この作品は、両親の離婚により幼くして離ればなれに育った双子の9歳の女の子たちが偶然に出会い、互いの知恵と努力によって一度壊れた家庭を再びよみがえらせるという物語です。
 いわばファミリーミュージカルの定番ともいえるもので、そのストーリーの冒頭部分はNHKの朝ドラ『だんだん』にもパクられたとの噂もありました(嘘です・・・)。

 しかしそんな感動ストーリーすら、当時の僕は「ありえねー」って感じで斜に構えて見ていたので、今も覚えていることといえば、上演中に叫んだ悪ガキの
 「ロッテ、ロッテ、ロッテのガムっ!!」
 という声にひきつるロッテ役の女優さんの顔くらいでしたから、およそ『情操教育』などしてもムダな子供だったのかもしれません。

 というわけで前ふりが長くなってしまいましたが、今日の新聞でその「二人のロッテ」というミュージカルの名前を久しぶりに目にしました。


《産経新聞社説より》
 ドイツの作家、エーリヒ・ケストナーの『ふたりのロッテ』の主人公、ロッテとルイーゼは、9歳の双子の女の子だ。林間学校でたまたま出会い、離婚した両親に別々に育てられてきたことを知る。意気投合した2人は、入れ替わって家に戻り、両親を元のさやにおさめる作戦を立てた。
 奈良市の山中で、遺体で発見された松本聖香さんも9歳だった。両親が離婚してからは、母親の元で双子の妹とともに暮らしていた。今年1月、妹が父親の元に帰ることになった。聖香さんも、一度は「私も帰りたい」と言ったものの、「やっぱりお母さんの方がいい。お母さんとおりたい」と言い直して、とどまったという。
 ひょっとして、母親の元を去ってしまえば、家族を再建することが、できなくなると、子供ながらに考えたのかもしれない。なにより、お母さんが大好きだった。そんな聖香さんの思いは、まもなく踏みにじられる。
 大阪府警の調べで、母親と内縁の夫による、放置や虐待の実態が少しずつ明らかになってきた。聖香さんが、マンションのベランダに閉め出されている姿が、たびたび目撃されているほか、脳に微量の血腫が見つかっている。体には打ち身の跡やあざがあった。
 児童相談所の権限を強化するなど、改正児童虐待防止法が施行されて1年たったが、またも悲劇を防ぐことができなかった。内縁の夫は、「しつけの範囲内だった」と供述しているという。そんな言い訳はもう聞きたくない。
 ロッテとルイーゼは10歳の誕生日に作戦の総仕上げを行う。両親に、プレゼントはいらないからいっしょにいてほしい、と懇願したのだ。大成功だった。聖香さんの妹は、10歳の誕生日をたったひとりで迎えなければならない。


 この記事、電車で読んで思わず泣きそうになりましたよ。
 実はこの女の子は僕の家からそう遠くないところ(歩いて10分くらい)に住んでいて、この子の実のお父さんが情報提供を呼びかけるビラを配っていた駅というのも、僕が普段の通勤に利用している駅なのです。その駅前の商店街の各店先にも同じビラが貼られていて、僕も気にはなっていたのですが、もう本当にかわいそうな亡くなり方でした。
 9歳の女の子が、義理の父親から「臭い、汚いから家にあがるな!」とののしられ、実の母親からもかばってもらえず、寒い中ベランダに放り出されて夜を過ごすこともあったなんて信じられません。そして親が外に食事に出かけている間に、誰にも看取られることなく、寒いベランダに出されたまま亡くなったとは・・・
 自分がこのことに対して怒りの声をあげる資格があるのかどうかわかりませんが、とにかく悲しくて悔しい思いです。なぜこんな悲しい死に方をしなければならなかったのでしょう。

昨年チベットのことを知ったときもそうだったのですが、
こんなことが起きるたびに、僕はいつもこの歌が思い出されます。

風を見たことはないけど
風の音なら聞く事ができる
心を見たことなどないのだけれど
心は伝えられる

あの子が生まれ変わるなら
何がいいかと聞いてみたい
もう一度人に生まれたいだなんて
本当にそう思うだろうか
あんな目に遭ったというのに

もしも生まれ変われるなら
ほんの一粒の麦だといいね
悲しみを痛む心も要らないし
誰かのために死ねるし

もしも生まれ変われるなら
ほんの一粒の麦だといいね
時を超えて地上に満ちていつか
きみの生命に替わる
きみのために生きる


心にしんみりとくる歌ですが・・・・
でも、やっぱり今度も聖香さんには「人」で生まれてきてもらいたいです。

改めて松本聖香さんのご冥福をお祈りいたします。
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コメント 7

c-d-m

本当に悔しい話です。
誰かを責めたり、批判するのは簡単ですが
人間が支配してよい命など一つも無い、と言いたくもなります。
亡くなったお嬢さんの冥福と安らかな休息を祈らずにはいられません。
by c-d-m (2009-04-28 09:36) 

Bonheur

自分がお腹を痛めて産んだ子供を痛めつけることができるなんて、同じ女性とは思えないです。。。聖香ちゃん、どんなに心細かったことでしょう。よく、「子供は親を選んで生まれてくる」と聞きますが、どうしてこんな所に生まれてきちゃったんだろう。。次に生まれてくる時には、幸せな温かい家庭に生まれてこられるといいですね。。
by Bonheur (2009-04-28 19:53) 

foret

★c-d-mさん、Bonheurさん

コメントありがとうございます。
きっと彼女には楽しい思い出もたくさんあったと思います。
聖香さんの実のお父さんやおじいさん、おばあさんの言葉からもそれはうかがえます。

お父さんや双子の妹さんがこれからどんな思いで生きていくのかと思うと本当に気の毒です。

僕が住んでいる町も高年齢化が進んでいるというか
子供が外で遊んでいる姿をあまり見ないんですよね。
子供が元気に走り回っていることが、地域にとっては実はすごく幸せなことなのだとみんながかみしめないといけませんね。
by foret (2009-04-28 22:19) 

Mimosa

ホント、信じられない話ですよね~。自分の子供を虐待して死なせてしまうなんて・・・。今日も、自分の子供を冷蔵庫で2年間も・・・というニュースがあったばかり。
最近は、身内を殺したり・・・と何だか世の中おかしい事件が多いですね。身内でなくても、人を殺すという心境が理解できないです・・・。
by Mimosa (2009-04-30 01:33) 

りゅう

ひどい事件が続きますよね。。。
メディアも視聴率重視で面白半分に表面的に取り上げることばかりで、
個別事案としても社会全体としても、本質的な部分の議論がありませんし。
近年、何かにつけて自分のことばかりで、
相手を思いやる心が失われつつあるように思います。
何かと権利ばかり主張する時代になりましたが、
まずは義務を果たさないと。。。
by りゅう (2009-05-01 21:01) 

TaekoLovesParis

久しぶりにforetさんの記事を読んで、時々はいるつっこみに笑いながら楽しくロッテちゃん、、だったのに、これは序文だったんですね。
この事件のことはニュースで聞きましたが、双子で、、といういきさつは知りませんでした。自分の子供より今の彼(内縁夫)に夢中になって子供をないがしろにするという自分中心の人、親としての自覚を持って育ててほしいです。ビラを配ってらしたおとうさんがお気の毒でなりません。
by TaekoLovesParis (2009-05-06 01:28) 

foret

★Mimosaさん、りゅうさん、TaekoLovesParisさん

コメントありがとうございます。
返事が遅れてしまって失礼いたしました。

今回の出来事は本当に驚きました。
本当に多くの人たちを不幸の底に突き落としてしまった事件でしたね。
子供ゆえにがんばって耐えるしかなかった少女が気の毒でなりません。
彼女の姉妹たちも、
「妹(姉)は母によって殺された」という事実を背負って生きていかなければいけないなんて悲しすぎます。
勝手にそうなっているだけと言われればそれまでなのですが、僕もこの事件はけっこう気が滅入りました。
こんなことは二度と起こってほしくないですね。
by foret (2009-05-07 01:55) 

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